故人への感謝を、次の成長へつなぐ
株式会社アテナが「お別れの会」に込めた想い

株式会社アテナ

代表取締役社長 渡辺 剛彦 様

スーツ姿の男性
会社名
株式会社アテナ
事業内容
メーリングサービス、ロジスティクス、コールセンター、データ処理などを中心としたBPO事業
従業員数
775名(うち正社員225名:2026年2月現在)
施行時期
2024年9月
URL
https://www.atena.co.jp/

株式会社アテナは、郵便ダイレクトメールの発送代行を起点として50年以上の歴史を刻んできたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業です。その礎を築いたのが、創業者である故人でした。2024年6月のご逝去後、近親者のみで葬儀を執り行い、約3か月の準備期間を経て同年9月、帝国ホテルにて約880名が参列する「お別れの会」を開催しました。

本記事では、故人の長男であり後継者として会の全体を統括した代表取締役社長の渡辺剛彦様に、開催の背景から準備の苦心、当日のこだわり、そして今後に向けた思いまでをお聞きしました。

「宛名」から始まった会社と、故人の存在

スーツ姿の男性

──はじめに、株式会社アテナの事業概要について教えてください。

渡辺様:宛名書きの「アテナ」を由来とする社名の通り、ダイレクトメールの制作・封入・封緘から郵便局への持ち込みまでを一貫して代行する事業から始まりました。その後、物流やコールセンター、データ処理へと領域を広げ、現在はあらゆるBPO業務をお受けできる会社を目指しています。年間約1億5,000万通のDM発送実績は業界トップクラスで、1,500社以上のお取引先の販促活動やバックオフィス業務を支援しています。また、国旗の製造・管理に関わる事業を通じて外務省様ともお付き合いがあり、これは故人のライフワークでもありました。

──故人は、社内でどのような存在でしたか。

渡辺様:正に“創業者”で「会社は家族」という考えの人でした。私は故人の長男ですが、社員の皆さんにとっても父親のような、晩年は祖父のような存在だったと思います。事業の根幹や本質、気持ちを自らの体で表現する人でしたので、その存在そのものが会長の価値でした。

故人は昭和11年生まれで、静岡の兼業お茶農家の出身です。苦労して上京し、奨学金で学校を卒業した人でした。全てのものを大切にするという姿勢を強く持っていた人で、それが会社のDNAになっているのかもしれません。

密葬から「お別れの会」へ──創業者の最期をどう送るか

スーツ姿の男性

──故人のご逝去を受けて、お別れの会を開催しようと至った経緯を教えてください。

渡辺様:私自身、若い頃は「親は死なない」と思っていました。社長となり、事業承継の過程で葬儀のことを相談しても、「人の死ぬことばかり考えるな、営業に行け」と一蹴する人でしたから。ただ、年を重ねるうちに、会社を愛し、自分が衰えても継続的に成長する会社にしたいという思いが伝わってきました。いずれ訪れる創業者の最期をどう送り出せばよいか、私なりに考えるようになったのです。

実は母が故人より先に亡くなっておりまして、その際は通常の葬儀で行いました。私も社長になっていたので多くの方に参列いただいたのですが、会長も私も動揺し、現場は大混乱でした。その経験から、故人のときはお世話になった皆さんにきちんと感謝をお伝えできる場にしたいと考え、親族のみで密葬を執り行ってから時間をかけて準備ができる「お別れの会」の形式を選びました。

──密葬とお別れの会、それぞれに込めた思いを教えてください。

渡辺様:密葬はエンバーミングを施し、親族のみで執り行いました。エンバーミングを施したため、静岡に居住している親戚が参列しやすい日時を選べましたし、子供たちや孫たちも何度も対面して、ゆっくり話をしながら過ごすことができました。創業者はいつも忙しくて家にいない人でしたから、最期に時間をかけてお別れができたのは、本当によかったです。

一方、お別れの会は社外の方を中心にお招きし、故人の沢山の人脈に漏れなくご案内を送ることを目的としました。普通のお通夜・告別式では全員は呼べません。お別れの会という形式を取ったことで、全国にいらっしゃる故人の関係者に葉書でご案内を送り、出欠を取らせていただくことができました。結果、880名の方にお越しいただきました。

一生に一度の「作品」──こだわり抜いた式典形式

スーツ姿の男性

──準備が動き出したとき、どのようなお気持ちでしたか。

渡辺様:果たして本当にできるのだろうか?という不安はありました。ただ、一人でやるわけではなく、社内で実行委員会を編成し、関係者全員が一丸となって取り組んでもらいましたので心強かったです。また、通常の葬儀とは全く異なるため、専門的なノウハウを有する公益社様のサポートを受けながら「いつまでに何をするか」を整理してもらえたのは大きかったです。

──社内の体制はどのように組まれましたか。

渡辺様:故人は「仕事を大事にしなさい」という人でしたから、社員全員に仕事を投げうって葬儀の準備をさせるのは本末転倒という思いもあり、そこには葛藤がありました。準備は実行委員会と役員に集中して行ってもらい、お別れの会当日も平日であるが故、全社員の動員ではなく、実行部隊と留守番部隊を配置しました。

会社の大半が留守になって会社に万一のことがあったら故人が天国で怒るだろうと思いましたし、何よりお客様にご迷惑をおかけしてはいけません。9月に入ってから当日の運営に携わる社員へのレクチャーを行い、業務と準備を両立する体制で臨みました。

祭壇

──帝国ホテルで式典形式を選んだ理由を教えてください。

渡辺様:帝国ホテルは1,000名規模の人数に対応できることや、故人の友人には高齢の方が多いことも念頭に、駅から近く、階段の上り下りが少ないバリアフリーであることも重視しました。

形式については、都合の良い時間にお越しいただき、順番に献花をされてから食事に移る「自由参列型」もありますが、私たちは決まった時間に式典・献花・食事という流れを組む「式典形式」を選びました。全国から数百名の方を、決まった日時に集めるのは簡単ではありません。もし参列者が集まらなかったら会場が寂しくならないだろうかと心配しましたが、800名以上の出席の返事が届いた時は安堵しました。

──準備の中で一番悩んだことは何でしたか。

渡辺様:正直に申し上げると、私の思いが強すぎたことです。お別れの会を執り行うならば、故人も満足し参列者も「出席してよかった」と思っていただける会にしなければならない。故人はこだわりの強い人で、私自身もそのDNAを受け継いだため、室礼や制作物、追悼動画の制作現場にも足を運んで、プロの方にたくさん口を出してしまいました。

また、指名献花の人選や席順、芳名板の順番は最後の最後まで悩みました。故人、そして私にとりましても、みなさま大切な方ばかりで、実行委員と日々議論を重ね、公益社様のご提案を受けながら最終決定をいたしました。

ある先輩経営者から「親子で世襲する会社の創業者の葬儀は、故人のためだけじゃない。会社のため、あなたのためだ。自分の作品だと思って真剣にやりなさい」と言われたことがあります。その言葉が胸にあり、一生に一度の正に「故人から与えられた機会」と位置付け、準備を行いました。

アテナらしさを込めた、内製の制作物と故人への室礼

冊子

──当日の運営で「アテナらしさ」を表現するために工夫した点はありますか。

渡辺様:当社は印刷物の制作も行えますので、できるところは内製する、と決めていました。ご案内状や、受付でお渡しした故人の略歴・団体歴を記した栞も社内で制作しました。
従業員から「社内で内製する=これぞアテナのお別れの会」と申し出があったのは感銘を受けました。

祭壇は、静岡県出身の故人が富士山をこよなく愛していたことを反映したデザインにしました。式典の献奏曲や献花中のBGMは、故人が生前、通っていたピアノ教室の先生がピアノを弾いてくださり、バイオリンとチェロは生前から親しくしていた方で構成した三重奏にしました。また、お食事会場の入口には、各国の国旗を並べて来場者をお迎えし正に故人が愛したもので囲まれた会場にしました。

──終えてみて、「開催してよかった」と感じたのはどんな瞬間でしたか。

渡辺様:参列された方から直接「いい式だった」と言っていただけたのが、一番嬉しかったです。事後にもお礼の挨拶に伺うと「よかったよ」と声をかけていただき、「慰労会」や「会長を偲ぶ会」を有志で設営いただき、2024年中から年明けまでお声かけくださいました。「親孝行したね」という言葉は、これ以上ない褒め言葉でした。

お取引先からは「お別れの会をきちんと開催できる会社だから、アテナに仕事を頼んでいます」とおっしゃってくださる方もいました。こだわった制作物についても「思いが伝わってきた」という感想を頂けて、やり切れてよかったと思います。

そして何より、社員に会社の誇りが芽生えたことも大きかったです。当日手伝ってくれた社員は、あれだけのお客様を迎え、室礼を目にして、心を打たれるものがあったと思いますし、留守番部隊も、各所から頂いたお言葉を通じて、間接的に創業者やアテナという会社を考える契機になったはずです。

創業の精神を実務に置き換え、後輩に伝えていく

スーツ姿の男性

──お別れの会を通じて再確認した故人のDNAを、今後どう受け継いでいきたいですか。

渡辺様:経営者たるもの、現場の実務に入り、一緒にやってくれるパートナーである社員と、一つの目的に向かってまとまっていく。現場・現物に寄り添うことの大切さを再発見しました。お別れの会の準備・運営を通じて、気持ちを一つにして、周囲への配慮を忘れずに結果を出すことの大切さを改めて感じました。

社員も、創業の精神やアテナのアイデンティティを感じ取ってくれたと信じています。それを実務に置き換えて、後輩に伝承してほしい。一つひとつの現場の力を集約すると、こんなに良いものができるのだと、今回の経験がすべての仕事に通じると実感しました。

──最後に、これからお別れの会を検討されている企業担当者へメッセージをお願いします。

渡辺様:家族でなくても、企業の経営者を見送ることは会社にとって大きな節目であり、ターニングポイントになります。そのタイミングを、故人のためにもしっかりと重要なものと捉えていただきたいと思います。

指名献花にするか一般献花にするか、式典形式にするか自由参列型にするかなど、やり方に正解はありません。それぞれの会社の方針・想いで決めればいいと思います。大切なのは、故人の思いをつなげ、伝える場にすること。『二度とない事なので、全てにおいて妥協せず、後悔のないようにやり切ってほしい』と声を大にして申し上げたい。これを経験者である私からの皆様へのメッセージとさせていただきます。

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