創業者のDNAをつなぐ場に
キリン堂ホールディングス「お別れの会」の舞台裏

株式会社キリン堂ホールディングス

執行役員 グループ総務統括部長 上野 裕士 様 / グループ総務総括部 グループ総務部 秘書 谷口 尚子 様

スーツ姿の男性と女性
会社名
株式会社キリン堂ホールディングス
創業・設立
創業1995年
事業内容
ドラッグストア・調剤薬局事業を展開するグループ企業の経営管理
従業員数
グループ全体 1800名
施行時期
2026年3月
URL
https://www.kirindo-hd.co.jp/

株式会社キリン堂ホールディングスは、関西を中心にドラッグストア・調剤薬局を展開する企業グループとして、地域の健康を支えてきました。

2026年3月、同社は創業者である会長(故人)のご逝去を受け、「お別れの会」を開催しました。葬儀は近親者のみで執り行われましたが、長年にわたり築かれてきた多くのご縁に感謝と敬意を伝えるべく、企業として「お別れの会」の開催に至りました。

本記事では、会の運営を担った担当者に、開催の背景や準備の葛藤、当日のこだわり、そして創業者のDNAをどのように受け継いでいくのかについて伺います。

キリン堂ホールディングスの事業と流れるDNA

スーツ姿の男性

──まず、株式会社キリン堂ホールディングス様の事業内容について教えてください。

上野様:当社は持株会社ですので、直接事業を行っているわけではありません。実際の事業の大半はグループ会社であるキリン堂が担っており、売上のほとんどを占めています。近畿圏を中心にドラッグストアや調剤薬局を展開しており、現在は約430店舗になります。

創業者はもともと「未病」という考え方を大切にしていました。病気になる前の段階、いわば「病に向かっている段階」で、悪化を防ぐことに価値があるという考え方です。その思想のもと、地域の方々に健康、安心や便利を届けることを目的に事業を展開してきました。

──上野様、谷口様のお二人の普段の業務内容についてお聞かせください。

上野様:私はホールディングスにてグループ総務統括部の部長を務めており、総務部と法務部の両面を見ています。具体的には取締役会や株主総会の運営、全社行事の統括、契約関係のリーガルチェック、弁護士対応、トラブル発生時の対応など、リスク管理全般を担っています。

谷口様:私はもともと故人の秘書として勤務しており、現在は社長の秘書を務めています。秘書業務は私一人で担当しているため、スケジュール管理や情報管理、社内外の関係者との調整など、業務は多岐にわたります。場合によっては故人のプライベートも含めて、日常を支えるような役割を担っています。

──日々の仕事の中で感じる「キリン堂のDNA」は、どのような場面に表れていますか。

上野様:店舗での接客に最も表れています。単に商品を販売するのではなく、顧客に対して説明を行い、情報提供を通じて価値を届ける。そのうえで継続的な関係性を築いていくことを重視しています。

谷口様:商品開発の面でもそのDNAは感じます。故人はアイデアが豊富で、時代を先取りすることも多かったのですが、それを形にしようとする文化がありました。例えば青汁は流行する前から取り組んでいましたし、原材料にもこだわりを持ち、現地まで確認に行くこともありました。「品質を重視する」という考え方は、今の商品開発にも受け継がれています。

「お別れの会」開催の背景と、企業としての意思決定

女性

──故人は、社内でどのような存在でしたか。

上野様:社内ではカリスマ性のある存在として認識されていたと思います。一方で、現場との距離が近く、社員一人ひとりへの気配りができる人でもありました。

また印象に残っているのは、知的好奇心の強さです。書籍や雑誌、新聞などを幅広く読み込み、会長室には常に多くの本が積まれている状態でした。哲学や経営に関する学びにも積極的で、思想的な側面も重視していた人です。

「社是にあります『統合』とは何か」とお聞きした際に、「えにし(縁)や」と答えられたことがありました。人と人とのつながりの中で価値が生まれていくという考え方も、大切にしていたのだと思います。

谷口様:社内外を問わず、多くの人に影響を与えてきた存在でしたね。今回のお別れの会では遠方から来られる方も多く、人とのつながりを大切にしてきたことが表れていました。

──ご逝去を受けて、会社として「お別れの会」を開催しようと思った背景を教えてください。また、どのような場にしたいと考えましたか。

上野様:逝去当日は、家族葬で静かに見送りたいという意向があり、社内でもごく限られた人しか知らない状態でした。その後、どのタイミングで誰に情報を伝えるかという整理が必要になり、早い段階から公益社様に相談しながら進めていきました。
社内では葬儀委員会の体制を組み、総務統括部を中心に広報や関係部署も巻き込む形で、公益社様やホテル様、花の装飾や演出会社などの外部パートナーも加えて、一つのチームを作りました。

谷口様:創業者ですし、70年近く会社を築いてきた方なので、「やらない」という選択肢は想定していませんでした。会については、関係者の方々に感謝を伝え、受けとる場であると同時に、故人の歩みや人となりをきちんと共有できる場にしたいと考えていました。

担当者として向き合った、使命と葛藤

スーツ姿の男性と女性

──お別れの会の担当者として動き出した時、どのようなお気持ちでしたか。

上野様:創業者のお別れの会ということもあって、当然ながらやり直しはきかないですし、「しっかりやらねば」というプレッシャーはありました。参会者の方々に「来てよかった」と思ってもらえる会にしたい、という意識は強かったです。

谷口様:正直なところ、不安は大きかったです。秘書として一人で担当している部分も多いので、もしうまくいかなかった場合は自分の責任になる、という感覚はありました。一方で、「自分にしかできないことがある」という意識もありました。「これまで私が故人の近くで見てきたことや、知っていることを形にしないと、なかったことになってしまう」という思いがあり、それが使命感につながったと思います。

──準備をしていく中で最も苦労したことについてお聞かせください。

上野様:やはり「ありきたりな会にしたくない」という点が一番大きかったです。そのうえで、どう具体的に形にしていくかが難しかったですね。

今回、谷口が用意してくれた資料の量が非常に多くて、「ここまで出すのか」と思うほどでした。写真やメモ、過去の資料など、本当にさまざまなものが集まっていて、結果的にそれが今回の会の特徴にもなりました。実際に公益社様からも「これだけの展示物は過去にあまり例がない」と言われましたし、他のホテル関係者の方からも「今まで経験したお別れの会の中で一番印象に残った」という声を頂いています。

谷口様:正直なところ、何を残して何を出すかはかなり悩みました。整理している中で、「これは捨てられない」と感じるものが多くて。ただ、それをどう見せるかについては、自分の視点だけでは判断できない部分も多かったので、公益社様に一度すべてお渡しして、そこから選定していただく形にしました。

空間・演出・体験 ──記憶に残るお別れの会づくり

会場の様子

──当日展示した制作物には強いこだわりがあったと伺っています。どのような想いを込めて制作されたのでしょうか。また、特に印象的だった制作物について教えてください。

谷口様:まずはOBの方々に喜んでもらいたい、という思いがありました。それぞれ一緒に過ごしてきた時間があると思うので、それを自然に思い出してもらえるような場にしたかったのです。そのため、展示はできるだけ写真を多くして、文字は少なめにし、会場にいるだけで何かを感じ取ってもらえるような構成を意識しました。

また、一番印象的だったのは、実物大で再現したキリン堂の1号店です。当初は規模やコストの面から「そこまでしなくてもいいのではないか」という意見もあったのですが、結果的にはインパクトのある展示になったと思います。

上野様:実際に出来上がったものを見ると、やはりインパクトは大きかったです。他ではあまり見ない表現ですし、会場に入った瞬間の印象としても強く残るものになっていました。

谷口様:展示と食事のスペースは完全に分けるのではなく、行き来できるようにしていたのですが、それも良かった点だと思います。「もう一度見に行こう」と思った時に、自然に戻れる動線を意識しましたね。

あとは、会長が好きだったお茶を実際に点てる場も設けました。普段からお茶に親しんでいたという話があったので、それを体験として取り入れています。また、写真をもとにした映像演出も印象的でした。静止画をもとに、AIで動きをつける形で制作したのですが、想像以上にリアリティがあり、感情に訴えるものになっていたと思います。

スーツ姿の男性と女性

──当日の運営で「キリン堂らしさ」が伝わるように工夫した点はありますか。

上野様:一番意識していたのは、会長の人柄でもある「人への向き合い方」です。温かさや気配りといった部分を、当日の対応にもそのまま反映したいと考えていました。そのため、当日対応に入る社員にも、「感謝の気持ちを持って接してほしい」ということは事前に伝えていました。実際に、多くの社員がその意識で動いてくれていたと思います。

谷口様:社員の動き方も印象的でした。ただ指示を受けるのではなく、受付や誘導の動線についても具体的な質問が出たり、それぞれの持ち場での対応をしっかり確認していたりと、主体的に関わっていた印象があります。

開催後に再認識した「DNA」と、これからの継承

会場の展示物

──会を終えてみて、「開催してよかった」と感じたのはどんな瞬間でしたか。

上野様:やはり、最後に参会された方から直接声をかけていただいた時です。「良かった」「こんなお別れの会は初めてだった」といった言葉を頂くことが多くて、印象に残っています。また、食事の場でも自然に会話が生まれていて、談笑されている方もいれば、展示を見ながら静かに振り返っている方、涙を流されている方など、さまざまな過ごし方をされていました。

谷口様:私は、OBの方々から「来てよかった」と言っていただいた時が印象に残っています。手を握って声をかけてくださる方もいて、その一言で開催してよかったと思えました。それぞれの思い出を共有しているような雰囲気もあり、会長がつないできた関係性がそのまま表れていましたね。

──今回のお別れの会を通じて、改めて感じたキリン堂のDNAを今後どのように受け継いでいきたいと考えていますか。

上野様:展示物を見ていて改めて感じたのは、会長が言葉として掲げていたものを、そのまま実践してきた人だったということです。例えば「革新」や「勉強」といった考え方もそうですし、「有言実行」という姿勢もそうです。そういったものは、時代が変わっても本質的には変わらない部分だと思っています。

──これからお別れの会の開催を検討する企業担当者の方へ、メッセージをお願いします。

上野様:創業者のお別れの会は、その方が築いてきたものをどう受け継いでいくのかを、社内外に示す場でもあると思います。準備を進めるうえでは、「なぜ開催するのか」「どんな場にしたいのか」を最初にしっかり整理しておくことが大事だと感じました。そのうえで、社内外の関係者が一体となって進めていくことが不可欠です。

谷口様:準備という意味では、名簿の整理などはできる範囲で事前にやっておくといいと思います。また、「こういうことをやりたい」という思いは、まずは一度伝えてみることが大事ですね。今回も、最初は難しいと思っていたことでも、相談することで形にしていただけた部分がありました。

しっかり準備して、関係者と同じ方向を向いて進み、ぜひ納得できる形で送り出す場にしていただきたいなと思います。

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